Duel

いつもと同じ時間に家を出る。
ウォークマンのセットも万全である。

~♪♪

駅までの道半ば、前方にいつも見かけない男の姿があった。
缶コーヒーを飲みながら遅々と歩いている。
白いワイシャツに黒のスラックス、もう一方の手にはブリーフケース。
見たところ30代のサラリーマンのようだ。

人一倍歩くペースが速い私は、見る見る追いつくことになる。
お先に失礼したいところだ。
さりげなく男の左側から追い越していく。

…ほどなく妙な感覚。

肌をかすめ漂う空気が何か違うように感じたのだ。
周囲の音は耳にする音楽とノイズキャンセリングで完全に遮断されていた。

…ふと振り返る。

うわっ!

とうに追い越したはずの缶コーヒーの男が、
右斜め後方にピタリと寄り添うように張りつき、私の顔を凝視していたのだ。

ゾッとした。

な、なんなんだ!?

さすがに気持ち悪く、歩く速度を緩めることにした。
缶コーヒーの男がこのペースで歩けるなら、
自分が後ろについても、いつもの電車には十分間に合うはず。
先に行かせた方が良さそうだと判断したのだ。

ところが、後方につき2メートルも間隔を空けたところで、
缶コーヒーの男は、最初に見かけた遅々としたペースに戻したのだ。


単純に、ああ~面倒だなあと思った。
朝の忙しい時間には、たまにあるケースなのだ。
特に女性相手にありがちな話である。

スタスタと歩く私をちょこちょこと小走りで追い越す女性。
しばらくすると走ることをやめ、歩行に変わる。
前を歩く男を追い越したことで少し安心するのだろう。

ところが私は誰よりも歩くのが速い。
悪いが少し前に追い越した男に抜かれることになるのだ。

いつもイヤだなあと思いながらも追い越すことになる。
こちらも時間に迫られているのだ。
しばらくすると女性は再び小走りで追い越していく。
そして、抜きつ抜かれつを繰り返す。
結局、先に目的地にたどり着くのは私なのだ。

毎回こんなことに出くわすたびに申し訳ない気持ちになる。
願わくば走り続けてほしいのだが、たいていの女性はこんな感じなのだ。


話を戻そう。

再び遅々としたペースで前を歩く缶コーヒーの男。
こちらとしては電車に乗り遅れては困る。
何となくイヤだなあと思いつつも、
道幅に隙間のある右側から今度は追い越しをかけることにした。

!!

まさかだろっ…。

缶コーヒーの男は、私が横に追いついたと同時に、
私の左側をピタリと合わせた速度で歩き始めたのだ。

人の多い街中で、同じ速さで歩く人がいるのとはわけが違う。
ここは住宅地の中、横に3人も並べばギリギリの狭い路地なのだ。
周囲に一切の人影はなく、私たち2人きりである。

くそっ、ついてくるなよ…。

そのまま10メートルは歩いただろう。
ペースを落とす様子が一向に見えず、気味が悪いとしか言いようがない。

先に行ってもうおうと思い、再びペースを落として下がってみる。
すると、すぐにノロノロペースに戻す缶コーヒーの男。

いったい…。

こんなペースに付き合っている余裕なんかない。
意を決して、三度追い越しをかけることにした。

しかし、しかし、また同じようにピタリと横に張り付いてくるのだ。
目を合わさないようにするが、こちらをじっと見ていることを感じる。
背中を悪寒が駆け上がった。

さすがに我慢しきれなくなった私は、
少し遠回りになるが先に見える別の路地に入ることを決めた。
200メートルも歩けば同じ道に戻るが、
駅までの道をこの調子でずっと憑いて来られては堪らない。

速度を増して、歩く、歩く、歩く。
道を逸れ、先の曲がり角で来た道を横目で振り返った。

…。

いない。

妙な悪寒はなかなか消えなかった…。

今年の夏の出来事。
いつもと同じ時間、その後、その男を見かけない。


なぜ!?
何のために!?
追われる恐怖、責められているような恐怖。
相手の心意が掴めないと、必要以上に恐怖を感じるものだ。

激突!

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